【図解】入試頻出の中和滴定や酸化還元滴定で使う実験器具(ホールピペット、ビュレット、メスフラスコ、三角フラスコ、コニカルビーカー)の使い方と違い、共洗いについて細かく解説します。実際の練習問題もつけておきますので、アウトプットしてみて理解を深めましょう。
ちなみに僕は10年以上にわたりプロとして個別指導で物理化学を教えてきました。
おかげさまで、個別指導で教えてきた生徒は1000名以上、東大京大国公立医学部合格実績は100名以上でして、目の前の生徒だけでなく、高校化学で困っている方の役に立てればと思い、これまでの経験をもとに化学の講義をまとめています。参考になれば幸いです。
まずは実験器具を使った中和滴定の流れをつかみましょう
ビュレット、ホールピペット、コニカルビーカー、メスフラスコ(三角フラスコ)それぞれの使い方を理解するには、中和滴定全体の流れを理解することが必要です。
そもそも中和の考え方を忘れた人は【練習問題付】中和反応とは?化学反応式と計算問題の解き方を参考にしてください。
例えば、濃度がすでに分かっているシュウ酸(COOH)2を使って、濃度が不明の水酸化ナトリウムNaOHの濃度を求める中和滴定の実験を行うとしましょう。
濃度がすでに分かっている溶液を標準溶液、濃度が不明の溶液を試料といいます。
おおまかな手順としては、
以上となります。
それでは具体的に流れを確認していきます。
シュウ酸を「メスフラスコ」で調製
実験器具全般の確認をしておきたい人は【完全版】中和滴定の滴定器具の使い方と違い(練習問題付き)を参考にしてください。
まずは質量を正確にはかったシュウ酸を入れ、標線まで水を入れることで正確な濃度の溶液を調製することができます。
質量が正確ということは、溶質であるシュウ酸の物質量(モル)が正確ということで、さらに標線まで加えることで、正確に溶液の体積が測定できます。
つまり、
$$モル濃度[mоl/L] = \frac{溶質の物質量[mоl]}{溶液の体積[L]}$$
の分子も分母も正確に測定できるということですので、モル濃度を正確に求めることができます。
「ホールピペット」で「コニカルビーカー(三角フラスコ)」に移動
ホールピペットについての詳細は【図解】ホールピペットとは?使い方と注意点について解説を参考にしてください。
次に、調整したシュウ酸水溶液をホールピペットではかり、コニカルビーカーにうつします。
水酸化ナトリウムを「ビュレット」に入れる
ビュレットについての詳細は【図解】ビュレットとは?使い方と注意点について解説を参考にしてください。
次に、濃度不明の水酸化ナトリウム水溶液をビュレットに入れます。
ビュレットに入れた濃度未知の水酸化ナトリウム水溶液をコニカルビーカーに入っているシュウ酸水溶液に滴下します。
水酸化ナトリウムが滴下されるごとに、シュウ酸と中和され、水酸化ナトリウムの塩基性が打ち消されるため、フェノールフタレインは赤変しませんが、コニカルビーカー内のシュウ酸をすべて使い切った次の水酸化ナトリウム一滴からは塩基性が打ち消されず、フェノールフタレインが赤変します。
このときが中和の当量点となります。
実験器具の使用前に共洗いするか、水でぬれたままつかうのか
共洗い(中に入れた溶液で洗う)するもの
ビュレット、ホールピペット
水でぬれたまま使うもの
メスフラスコ、コニカルビーカー(三角フラスコ)
ともあらい(共洗い)はビュレット、ホールピペットと「と」で覚えましょう。
では、それぞれの実験器具は、なぜ共洗いすべきなのか、水でぬれたままつかうのかについて解説していきます。
メスフラスコは水でぬれたまま使う理由
メスフラスコはどうせ水で薄めますので、水でぬれたままで問題ありません。
むしろ共洗いしてしまうと、最初に入れたおいた溶質(今回の例でいうとシュウ酸)が増えてしまうのでダメです。
ホールピペットは共洗いする理由
ホールピペットは、濃度が正確にわかっている溶液などの体積をはかりたいときに使用しますので、水でぬれたままだと、水滴で溶液が薄まり、濃度が小さくなってしまうのでダメです。
そのため、共洗いをすることで濃度が小さくならないようにします。
今回の例でいうと、正確な濃度のシュウ酸をコニカルビーカーにうつす際、ホールピペットを使用しました。
せっかく正確な濃度のシュウ酸をつくったのに、水滴で薄まってしまってはいけませんので、このシュウ酸で洗ってから使うということです。
コニカルビーカーは水でぬれたまま使う理由
コニカルビーカーには、物質量(モル)が正確にわかっているものを入れるため、水でぬれたまま使用します。共洗いをしてしまうと、むしろ物質量が増えてしまうのでダメです。
今回の例でいうと、正確な濃度のシュウ酸をホールピペットに入れて体積をはかりとり、それをコニカルビーカーに入れました。
この際、
モル濃度×体積 = 物質量(モル)となるため、
シュウ酸の正確な物質量(モル)がわかっているはずです。
そのため、コニカルビーカーは水でぬれたまま使用し、共洗いをしてはいけないのです。
ビュレットは共洗いする理由
ビュレットはこれから濃度を求めたいと思っている溶液を入れます。
そのため、水でぬれたままだと、水滴で溶液が薄まり、濃度が小さくなってしまうのでダメです。
そのため、共洗いをすることで濃度が小さくならないようにします。
今回の例でいうと、濃度を知りたいと思っている水酸化ナトリウム水溶液をビュレットに入れて使用しました。
濃度を知りたいと思っている水酸化ナトリウム水溶液なのに、水滴で薄まってしまってはいけませんので、この水酸化ナトリウム水溶液で洗ってから使うということです。
中和滴定の器具の練習問題
濃度がわかっている塩酸をホールピペットを用いてコニカルビーカーにとり、フェノールフタレイン溶液を数滴加えた。これに下図のようにして、濃度がわからない水酸化ナトリウム水溶液をビュレットから滴下した。この滴定実験に関する下の問い a ・ b に答えよ。その答えの組合せとして正しいものを、①~⑧ のうちから一つ選べ。
a 次の操作ア~エのうちから、適当でないものを一つ選べ。
ア ビュレットの内部を蒸留水で洗ってから、滴定に用いる水酸化ナト リウム水溶液で洗った。
イ ホールピペットの内部を蒸留水で洗い、内壁に水滴が残ったまま濃度がわかっている塩酸をとった。
ウ コニカルビーカーの内部を蒸留水で洗い、内壁に水滴が残ったまま、濃度がわかっている塩酸を入れた。
エ 指示薬のフェノールフタレインが、かすかに赤くなって消えなくなったときのビュレットの目盛りを読んだ。
b 下図は、ビュレットの目盛りを読むときの視線を示している。目盛りを正しく読む視線を、矢印オ~キのうちから一つ選べ。
[su_spoiler title=”【解答解説】※タップで表示” style=”fancy”]【解答】③
【解説】
a
ア ビュレットは、ぬれたまま使用すると、内壁に付着した水滴で薄まってしまうからダメでした。
イ ホールピペットは、標線まで吸い上げた液体の量が測定値であり、ぬれたまま使用すると、上記のビュレットと同じでうすくなってしまいます。
ウ 濃度がすでにわかっている塩酸を入れたとき、入れた塩酸のモルは一定値なので、コニカルビーカーがぬれていても、溶けている溶質の塩化水素のモルには影響がありませんので問題ありませんね。
エ フェノールフタレインは弱塩基性以上で赤色でした。そのため、水酸化ナトリウムが滴下されたとしても、塩酸が残っているうちはただちに中和され、赤色が残りませんが、塩酸がなくなってしまった後の次の一滴は水酸化ナトリウムが消えないため、赤色が消えなくなるということでした。
b ビュレットなどの目盛りを読むときは、表面張力で器壁あたりは盛り上がってしまっているため、最もへこんだ中心付近の目盛りを読み取ります。
[/su_spoiler]さいごに
本記事で解説した滴定器具は、中和滴定または酸化還元滴定の問題の際、ついでによく聞かれることなので、まとめて覚えておきましょう。
なお、復習はタイミングが命です。僕がこれまで1000名以上の個別指導で、生徒の成績に向き合ってきた経験をもとにまとめた化学の勉強法に記載しています復習のタイミングについても参考にしてもらえれば幸いです。
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